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チーズに住むカビってどんな種類がいるの?|チーズの製法に関わる微生物たち

チーズに住むカビってどんな種類がいるの?|チーズの製法に関わる微生物たち

ヨーロッパでは広く親しまれ、今や日本人にとっても日常的な食べ物となったチーズ。その種類や製法、歴史は多岐に渡ります。しかし、どんなチーズにも必要とされるのがカビ(菌)による発酵の過程です。今回はチーズとカビの切っても切れない関係性について説明します。

ナチュラルチーズとプロセスチーズの違いは、カビにあり⁉︎

チーズは製法によって大きく「ナチュラルチーズ」と「プロセスチーズ」の2種類に分けられます。

ナチュラルチーズはいわば「カビが生きているチーズ」。牛やヤギなどの乳に乳酸菌や酵素を加え発酵させたものです。カビが生きているためフレッシュなものを供給しにくい面もありますが、長期保管できるものもは熟成による味わいの変化を楽しむこともできます。

対してプロセスチーズは1種類、または数種類のナチュラルチーズを混合してさまざまな加工を行ったものを指します。加熱処理が行われているものが大半で、カビの活動が止まっており長期の保管も可能ですが、逆に言うと熟成が進むこともなく、良くも悪くも味わいが一定です。

ナチュラルチーズにはさらにその中で製法によって7つの分類があります。

いずれも最初は乳にラクトコッカス・ラクチス、ラクトコッカス・クレモリス、ストレプトコッカス・サーモフィルスなどの乳酸菌を加え、凝固分(カード)と水分(ホエイ)を分離します。このカードを押し固めたり、熟成させたりすることでさまざまな種類のチーズが出来上がります。

ラクトコッカス・ラクチスの顕微鏡画像
Minyoung Choi from Cupertino, CA, USA

また、乳酸菌は主に酸を生成して乳を凝固させる作用がありますが、他にもロイコノストック・メセンテロイデス、ラクトコッカス・ジアセチラクチス、ラクトバチルス・デルブルッキイなど、チーズ独特の風味を生み出す乳酸菌も利用されることがあります。

カビが生きるナチュラルチーズには7つの種類がある!

1.フレッシュタイプ

上記の通り、乳に乳酸菌あるいは酵素を入れて凝固させたものです。有名な種類としてモッツァレラ、マスカルポーネ、フェタなどが挙げられます。熟成はほとんどさせず、水分量が多いのが特徴です。

2.白カビタイプ

カードから水分をある程度切ったあと、表面に白カビをつけて熟成させたものです。カマンベール、ブリーなどが有名なものとして挙げられます。白カビに覆われた見た目は初見では敬遠するかもしれませんが、この白カビ(ペニシリウム・カマンベルティ)は人体には全く無害なカビです。タンパク質分解酵素を出すことでチーズの熟成が進み、同時に他の菌からチーズを守ってくれています。

3.青カビタイプ

こちらもカビを利用して熟成させるタイプのチーズですが、白カビタイプが表面に繁殖させるのに対して、青カビタイプはチーズ内にカビを繁殖させるという特徴があります。有名なものとしてゴルゴンゾーラ、ブルー、ロックフォールなどが挙げられます。この青カビ(ペニシリウム・ロックフォルティ)、実は毒素自体は出しているもののその量が極めて少なく、また生成されたとしてもチーズ内の成分で無害化されるため食べても問題がないのだそう。人体に無害なカビというわけではないのに食文化として定着しているのが興味深いですね。

4.ウォッシュタイプ

カードから水分を切り、成形したのちに塩水や酒などで表面を定期的に洗いながら数週間熟成させたものです。日本ではあまり一般的ではありませんが、エポワスやポン・レヴェックが有名です。白カビ、青カビタイプのように見た目からカビに覆われているということはありませんが、実は表面を洗いながら熟成させるので湿気を好むリネンス菌(ブレビバクテリウム・リネンス)が繁殖し、独特の風味が生まれます。このリネンス菌は納豆菌の親戚のような菌で、増えすぎると納豆のような匂いがしてしまうとのこと。これを防ぐためにも定期的に洗ってやる必要があるのです。

5.シェーブルタイプ

原料に牛ではなくヤギの乳が使われるチーズのことを指します。こちらも日本ではあまり聞かないタイプですが、じつは牛の乳を使うチーズよりも歴史が長い伝統的なチーズです。ヴァランセ、クロタンなどが有名です。シェーブルタイプの中でも白カビをつけて熟成させるもの、木炭をつけて熟成させるものなど、さらにさまざまな種類があります。

6.セミハードタイプ

カードを圧縮し、水分を38%〜46%まで落とした、硬めのチーズ。3ヶ月から半年程度熟成させるのが一般的で、ナチュラルチーズのなかでも長期保存が効き、かつ熟成期間によって違う味が楽しめます。有名なものとしてゴーダやラクレットが挙げられます。

7.ハードタイプ

セミハードタイプからさらに水分を38%以下に落とした、とても硬いチーズ。熟成期間もさらに長く、1年以上となる場合もあります。エメンタール、チェダー、パルミジャーノなどが有名です。セミハードタイプの熟成が進みハードタイプになるチーズもあります。

このように、チーズは必ずどこかでカビ、菌のはたらきを利用して作られます。これらの菌の人体への影響は、菌という存在が明確に認知されるはるか前から長い歴史の中で検証されてきました。特にチーズに利用される白カビや青カビは無害であるどころか、血圧の上昇や認知症の抑制効果もあるという研究すら存在します。

ダニを使ってチーズの発酵を促す⁉︎ 世界の奇妙なチーズたち

ちなみに、チーズの熟成を助けるのはカビだけではありません。フランスのミモレット、アーティズー、ドイツのミルベンケーゼというチーズはカビではなく「ダニ」を表皮に住まわせることで熟成を促進します。いずれも伝統的な製法として引き継がれており、程度の差はあれど他の地域でもダニを利用するチーズ製法は古くから存在します。

しかもこの3つのチーズ産地は地理的にかなり離れているにもかかわらず、利用されているダニは1種類の「チーズコナダニ」のみだったという研究もあり、非常に興味深いチーズ文化だと言えるでしょう。

スーパーでも見かける「ミモレット」は、「シロン」と呼ばれるコナダニの力で熟成する

ちなみに、ミモレットは表面を削ぎ落として食べるのに対し、アーティズー、ミルベンケーゼはダニが含まれる表面部分も一緒に食べることが多いのだそう。

イタリアのサルデーニャ地方でつくられるカース・マルツゥというチーズは意図的にハエに卵を産みつけさせ、その幼虫の活動によって独自の味を作り出す「蛆入りチーズ」です。

かなりやわらかく、液体の滴る見た目もさることながら、味も酸味とクセが強く、まさしく「腐ったチーズ」と言っても過言ではないでしょう(カース・マルツゥとは現地の言葉で「腐ったチーズ」という意味)。しかもこのチーズ、EUの規定では健康を害する可能性があるという理由で販売が禁止されています。しかしサルデーニャ地方ではこれを伝統的な食文化として認めさせようという動きもあるそうです。

蛆の力で熟成を行う「カース・マルツゥ」

イギリス原産の「スティルトン」というチーズは、フランスのロックフォール、イタリアのゴルゴンゾーラと並んで「三大ブルーチーズ」のひとつとして有名です。しかしこのスティルトン、「食べると奇妙な夢を見るチーズ」として有名なんだそう。

根も葉もない噂かと思いきや、2005年に英国チーズ委員会によって行われた200人を対象に行われた調査が元になっているそう。科学的根拠はまだ無いものの、日本でも普通に売られているチーズなので、試したい人は挑戦してみてはいかがでしょうか。

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