世界中で活躍したPCR法を発明したのは、パリピサイエンティストだった!『マリス博士の奇想天外な人生』|微生物を読む。 #002
「微生物の世界は言葉の中にも広がっている!」を合言葉に、数多くある微生物関連の書籍から、mics magazine編集部イチオシの1冊をピックアップするこの企画。
2冊目となる今回は、編集部員、和田絢太郎より『マリス博士の奇想天外な人生』(著:キャリー・マリス 翻訳:福岡 伸一)をご紹介。コロナ禍で世界が注目した「PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法」。その生みの親となった生物学者、キャリー・マリス博士の人生は、まさにパンク! まさか、こんな人がPCRをつくったなんて……とにやけてしまう、笑いと驚きに満ち溢れた自伝です。
もしホンダが銀色のシビックを出していなかったら、この世にPCRは存在していなかったかもしれないーー発明はささいなきっかけの積み重ねで生まれる。キャリー・マリス博士がPCR法を見出した時もそうだった。
カリフォルニア州バークレーからのドライブデートの途中、PCRの仕組みを閃いたことからはじまる本書。1993年にノーベル賞を受賞したマリス博士の破天荒かつ探究心にあふれた人生で彩られている。
マリス博士の自伝の軽妙さはもとより、「微生物」的に必読なのは、PCRが生まれた経緯。そのきっかけとなったのは、イエローストーン国立公園で見つかった好熱性の細菌、Thermus aquaticus。70℃の高温でも増殖するこの微生物から単離されたDNAポリメラーゼが、PCRを可能にした。
……と、サイエンスの詳しい話もあれど、なによりマリス博士の自伝は笑いの連続。ページをめくる前に、まず表紙を飾る爽やかなサーファー姿のマリス博士に「サイエンスと全然関係ないじゃないか!」とつっこんでしまいそうになる。しかし、この格好はサーフィン狂のマリス博士のご定番。ノーベル賞受賞時もサーフィン中に受賞の連絡を受け、「サーファーがノーベル賞受賞」と世間が騒いだほど。
論文数はノーベル賞受賞者の中でも圧倒的に少なく、その代わり(?)おそらく受賞者中、誰よりもサーフィンが上手い。7歳で火薬をつくって大爆発させ、LSDにハマり、酒豪を極め、何度も結婚を繰り返す……字面だけ見れば完全にハチャメチャな「パリピ」。しかし、純粋無垢な好奇心と、閃きの鋭さはピカイチ。「奇才」と呼ぶのがこれほどにふさわしい人はそうそういないはずだ。
2019年、74歳の生涯を終えたマリス博士。奇しくもその翌年から、世界的にPCR法が活躍することになる。「PCRは病原体の検査に使ってはならない」と生みの親として声をあげていたマリス博士。もし、彼が生きていたとしたら、世界を揺るがしたコロナ禍をどのように見たのだろうか。