そこに微生物がいるならどこへでも!
極限環境に生きる微生物を追い求めて旅をする、
若き研究者のノンフィクションストーリー
微生物の世界が広がっているのは、顕微鏡の中だけではない。
さまざまなフィールドで活躍する世界中の研究者や専門家が、微生物の虜になり、その美しさや楽しさをしたためてきた。
そんな数多くある微生物関連の書籍から、mics magazine編集部イチオシの1冊をピックアップするこの企画。微生物フリーク垂涎のマニアックな内容から、発酵食品、健康、環境問題など、あらゆる切り口から語られる、とびきりの微生物ワールドにあなたも魅了されるはず。
初回は、私、豊福 雅典がオススメする『追跡!辺境微⽣物−砂漠・温泉から北極・南極まで』(中井 亮佑 著)。砂漠や、北極など過酷な環境で生きる微生物を探しに世界中を駆け回る、若き研究者のスペクタクルなドキュメンタリーをご紹介。
告⽩すると、私は、微⽣物を研究対象としながらも、その⼩さな⽣物たちに愛情を感じることはこれまでに⼀切なかった。この本に出会うまでは。
本著書「追跡!辺境微⽣物−砂漠・温泉から北極・南極まで」は著者こと中井博⼠の微⽣物への愛を描いた⼀⼤叙事詩である。なかなか気難しくて振り向いてくれない微⽣物を追い求め、極限環境まで乗り出し、まだ「名前のない」微⽣物を追いかける。そうした努⼒が報われ、ついに今まで知られていなかったような微⽣物を発⾒する、その過程で⽣じる苦労、感動を伝え、読者の好奇⼼を充たしてくれる本に巡り会うことはなかなかない。ましてや、私のように⼈様が単離してきた細菌を使って、⽇頃をぬくぬくと研究室で過ごしているインドア派の研究者には、フィールド調査にどれだけの代償が⽀払われているのか、知る由もない。しかしながら、この本を読み終わったあとは、すっかり洗脳され、「⾃分にも新たな微⽣物を単離できるかもしれない!」、と⼼踊らされてしまうところが秀逸である。まさに、ブルース・リーの映画を観終わった後、⾃分が強くなったと勘違いして、ヌンチャク(と⾒せかけたタオル)をブンブン振り回す、勘違いの極めつけである。微⽣物⽣態学の世界に若い読書を引き込む狙いがあるとしたら、本書は⼤成功であると⾔えるだろう。
余談だが、ラクダを乗りこなし、ライフルも扱いながら極限環境へ向かう中井博⼠がどれだけハードボイルドでタフな研究者なのだろうかと思いきや、先⽇開催された国際学会のエクスカーションで誰よりもいち早く弱⾳を吐いていたと聞いている。中井博⼠の名誉ために追記すると、その⽇はとても蒸し暑い中を10km以上も歩き、まさに苦⾏であったようだ。
さて、微⽣物学という広範な学問を⼀般の読者に⾯⽩く解説し、かつ⽇々の研究の臨場感を伝える書物は稀である。私の浅い読書体験では、ポールド・ド・クライフ著「微⽣物の狩⼈」(岩波⽂庫)がそれを⾒事にやってのけている。その“微⽣物の狩⼈”の末裔である中井博⼠が⾃⾝の体験をまとめあげたこの本の価値はここでは表現しきれないので、皆様に是⾮⼿にとってお読みいただきたい。最後に、本書を読んでいて、⼼配になったことが⼀つある。中井博⼠は新婚さんであると聞く。⼼から幸せを願うばかりであるが、微⽣物に愛情を注ぎすぎて、奥様に愛想を尽かされないか、ただただそれが⼼配である。その⼼配をよそに、さりげなく、「おわりに」で奥様へ愛を語りかけているのは、さすがである。
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日本微生物生態学会誌 2019年34巻2号 p.80より一部改変して引用
https://doi.org/10.20709/jsmeja.34.2_80