Now Reading
体内で酒を醸す男

体内で酒を醸す男

Takeshi Ozu

お酒。
酵母が糖分を発酵させて作る、飲めば気分が良くなる大人の友。

酒税のある本邦で毎日のように飲むと、財布がどんどん軽くなるのが手に取るようにわかるのが玉に瑕だ。

タダでお酒が飲み放題になったらいいのに…そうだ!お腹の中で酵母を飼えば、食べた糖分を発酵させて、全部お酒にしてくれるんじゃないか?と、酒による酩酊を楽しむ人なら一度は夢に思うかもしれない。

この夢を実現した米ノースカロライナ州に在住する男性は、次のように診断された。

自動醸造症候群。



消化器官内の微生物によりアルコールが醸造されてしまう疾患である。

1972年に日本で症例が報告されており、腸管内で酵母(イースト)などの糖を発酵させてアルコールに変換する微生物が増加することにより発症する。

結果として、通常の食事をするだけで体内でアルコールが醸造され、酩酊状態に陥るのだ。つまり、糖分を摂取すると自動的に酩酊してしまうのだ。

常に酔っている状態が人生にとって有益だとは思えない。夢想するだけにしておこう。

先の男性も、お酒を飲んでもいないのに飲酒運転で逮捕されたり、酔って転倒し頭を負傷するなど、日常生活上の実害を被っていた。非常に稀な疾患であり、何軒もの精神科医・内科医・神経科医・胃腸科医で受診しても原因が特定されず、発症から数年後にようやく、オハイオ州の研究者により「自動醸造症候群」(auto-brewery syndrome, ABS)と診断された。


なぜこのような疾患に罹患したのか?

この男性は腸管がビール酵母に感染していたことが確認されたが、これは通常食物に含まれる微生物であり、健康な人間の腸内で過剰に増殖することは考え難い。

感染のためには、腸内細菌が一掃された状態が必要である。抗生物質などで腸内細菌が一掃された状態の下、酵母を経口摂取すると感染の可能性が生じる。この男性も、2011年に負傷した親指の治療のため、3週間に渡り抗生物質を使用した後にABSを発症した。

疾患の治療には腸内フローラの正常化を行う必要がある。男性の治療を担った研究者グループは、低糖質食による食事療法および抗真菌薬の使用に加え、試験的にプロバイオティクスサプリメント(ヒトの胃腸管に生息する微生物を封入したカプセル・錠剤)を併用した治療を2017年から1年に渡り継続し、症状を抑えることに成功した。2019年現在も症状の再発は報告されていない。

治療におけるプロバイオティクスサプリメントの効用はまだ研究されていないが、この事例では腸内環境の再建に有効であることが示された。研究者は、プロバイオティクスサプリメントの他に、糞便移植(糞便注入)による腸内フローラの正常化も治療法として研究の余地があると推測している。


参考記事

レジデントノート第44回 自動醸造症候群https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758116077.html#:~:text=%E3%81%93%E3%81%AE%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%AF%EF%BC%8C1972%E5%B9%B4,%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E5%8E%9F%E5%9B%A0%E3%81%A7%E3%81%99%EF%BC%8E

Man kept getting drunk without drinking. Docs found brewer’s yeast in his guts
https://arstechnica.com/science/2019/10/man-charged-with-dwi-after-alcohol-fermenting-yeast-in-his-gut-got-him-wasted/

体内でビールを醸造し「お酒を飲まないのに酔った状態」が何年も続いていた男性
https://gigazine.net/news/20191028-drunk-without-drinking/

参考文献1. K. Iwata:A Review of the Literature on Drunken Syndromes Due to Yeasts in theGastrointestinal Tract. University of Tokyo Press, pp260-268, 19722. Fahd Malik, et al : Case report and literature review of auto-brewery syndrome: probablyan underdiagnosed medical condition. BMJ Open Gastroenterology, 2019. DOI:10.1136/bmjgast-2019-000325

View Comments (0)

Leave a Reply

Your email address will not be published.

CAPTCHA


5 × 3 =

Scroll To Top