放射線にも耐える極限環境微生物、○○から見つかる
1950年ごろ、アメリカのとある農業試験場で、食品保存の研究の一環として放射線の一種であるガンマ線を缶詰に照射して殺菌する、という実験が行われていた。
そんな中、ガンマ線を照射して殺菌済みだったはずの缶詰の中身が腐敗・発酵してしまうという現象がおきてしまう。その缶詰を詳しく調べてみると、とある新種の細菌が見つかったのである。
これこそがD・ラディオデュランスが発見された瞬間だった。
こんな極限環境微生物が食品缶詰の開発中に見つかるとは、当時の研究者はもちろん、D・ラディオデュランスのほうも思ってもみなかったのではないだろうか。
ちなみに放射線耐性があるのはこの細菌に限ったことではない。
他の真菌や細菌でもある程度の耐性を持つものがいる。人間の腸内に住む大腸菌はヒトの8倍程度の放射線には耐えることができるし、さらにD・ラディオデュランスを抑え、「地上でもっとも放射線耐性が高い生物」と呼ばれているのが古細菌の一種の「テルモコックス・ガンマトレランス(Thermococcus gammatolerans)」。なんと最大30000Gyの放射線にも耐えたという記録がある。
繰り返すが、ヒトの致死量は7Gyなので実にその4000倍以上の耐性をもっていることになる。
近年ではD・ラディオデュランスを用いた宇宙環境下での実験も行われている。宇宙というのは常に放射線にさらされる環境であるが、そこでもこの細菌は(集団のなかの一部とはいえ)3年もの間生存する*3。それどころか、地上よりもDNAの回復が早まったというデータもあるという*4。
そもそも自然界で発生しえないレベルの放射線に耐える能力を持ち、さらには地球外のほうが能力が高まるとは、ますます謎が深まるばかりだ。
*3 https://www.wired.com/story/a-ball-of-bacteria-survived-for-3-years-in-space/
*4 https://iss.jaxa.jp/shuttle/flight/sts91/sts91exp10.html
このような極限環境微生物と呼ばれる微生物たちの生態や能力をさらに詳しく研究していけば、いつかは放射線を隔離する技術の開発や、他の生物が放射性耐性を身につけるといったことが可能になるかもしれない。そうなれば放射性廃棄物の処理などにも応用が効き、よりよい社会をつくることにもつながる。
菌類の多くはまだヒトに見つかっていない。
私たちの未来をひらく発見は、光の届かない洞窟の奥や海の底、果てしなく広がる宇宙の彼方ではなく、缶詰の中のような身近なところにこそ潜んでいるかもしれない。