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超過酷な環境に暮らす微生物がいる!? | 極限環境微生物7選

超過酷な環境に暮らす微生物がいる!? | 極限環境微生物7選

Takeshi Ozu

あなたは「生き物が暮らす環境」と聞いてどのようなものを思い浮かべますか? 
タンパク質を変性させるほどの高温環境、人体を容易に圧し潰すほどの高圧環境、遺伝子を破壊する放射線に満ちた環境……なんて考える人はきっと少数派。これらの環境は「極限環境」と呼ばれ、私たち思い浮かべる一般的な「生物」は生存ができません。しかし、このような一見生存不可能な環境に適応した「極限環境微生物」と呼ばれる微生物がいます。人が到底生き延びることができないような場所に暮らす微生物は、一体どのような生態を持っているのでしょうか? 今回は様々な極限環境に適応した極限環境微生物の中から、代表的な7例を紹介します。

1.適温は0℃付近!雪の上で色付く氷雪藻

雪の中に群落を作る氷雪藻

南極や北極などの極地や高山帯の雪の中。一見生物の生存を拒むこの環境で、雪が赤や緑などさまざまな色に染まっていることがあります。これは雪中で生育する藻類によるもので、氷雪の中で生育する藻類は氷雪藻と呼ばれています。彼らは氷温に近い低温を至適生育温度としており、例えばChloromonas rubroleosaは1~4℃で最も旺盛に生育します。
氷雪藻は、雪上特有の強い光に晒されます。これによるDNAの損傷を防ぐべく、アスタキサンチンなどのカロテノイド色素を細胞内に蓄積させることで、紫外線を防いでいると考えられています。この色素は同時に、太陽光を効率的に熱に変換し、周囲の氷の融解を促進、藻の繁殖に必要な液体の水を得ているのです。

2.「塩漬け」でないと生きられない高度好塩菌、Natronobacterium gregoryi

好塩菌により着色された塩田

食品の塩蔵は、周囲環境に通常存在する微生物を排除して食糧を長期保存する手段として、古くから行われてきました。塩蔵は塩の浸透圧により微生物を脱水して死滅させるものですが、高い塩分濃度の中でも活動する好塩菌は生存可能であり、塩蔵食品の腐敗を起こすことがある。塩湖や塩田などの他の微生物が生存できない環境で、赤色に染まった好塩菌の群落が見つかることもあります。彼らは細胞内に適合溶質を蓄積することで高濃度の塩分に対応しています。
好塩菌の中でも、恒常的な高塩濃度に適応したものを高度好塩菌と呼びます。これらの中にはNatronobacterium gregoryiなど、塩分濃度が低い環境に晒されると溶解して死んでしまう種も存在するのです。

3.生育至適pH0.7。好酸菌、Picrophilus oshimae

pHの低い環境を好む好酸性を示す好酸菌の中でも、ギリシア語で「酸を愛する」の意味を持つピクロフィルス属のPicrophilus oshimaeは極端な性質を持っています。1995年に北海道の噴気孔で発見されたこの古細菌は、生育至適pHが0.7、生育が可能なpHはマイナス0.06に達します。逆に、pHが4を上回る環境では細胞膜が維持できないほどに強酸性の環境に適応しています。

4.好アルカリ性細菌由来の酵素を含んだ洗剤がある!?

消石灰やアルカリ性電解水などの強アルカリ性を示す物質は、殺菌・消毒に広く用いられていますが、高アルカリ性の環境に適応し、その環境をむしろ好む微生物も存在します。
好アルカリ菌の中で最もpHの高い環境を好む生物の1つとして、Alkaliphilus transvaalensisがいます。南アフリカ、トランスヴァールにある金鉱の地下3200mで発見されたこの真性細菌は、pH12.5という極端な強アルカリ性の環境においても生育します。
好アルカリ性細菌が生成する酵素は、その耐アルカリ性から、洗剤の溶液中などの高pH環境下でも高い活性と安定性があります。ある企業の開発した洗剤では、好アルカリ性Bacillus属細菌の生産する菌体外酵素「アルカリ性セルラーぜ」が配合されています。木綿繊維内部の非結晶領域に侵入している汚れまで繊維を傷めずに放出させることで、優れた洗浄効果を発揮すると言われています。

5.100℃以上の環境で生育する超好熱菌

極めて高温の熱水が噴き出す深海の熱水噴出孔。熱水にはさまざまな化学物質が含まれていますが、余りの高温のため、熱水中に棲息可能な生物は超好熱菌に限られています。その1つが、122℃で増殖するメタン菌、Methanopyrus kandleri
海洋研究開発機構が熱水から分離したこの菌は、大気圧下では85~116℃、実験環境下で再現された高圧下では122℃までの温度での生育が確認されたほか、高圧下で130℃の熱に晒されても3時間後の生存することがわかっています。
高温下で旺盛に生育する好熱菌の持つ耐熱性酵素は、その特性から、産業用途での応用が行われています。代表的なものが耐熱性DNAポリメラーゼで、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法で利用されています。
PCR法とは、遺伝子の特定領域を100万倍以上に増幅する手法。微量遺伝子の検出のほか、法医学、環境中の微生物モニタリング、食品工場での雑菌汚染の早期検出などの幅広い領域で応用されています。
コロナウイルスへの感染を判別するために用いられるPCR検査もこの応用の1つで、PCR法はその工程中にDNAを高温環境に晒す操作を含むサイクルを繰り返しています。初期に使用された通常の菌から抽出した酵素ではこの高温に耐えられず、加温処理の都度新たに酵素の添加を必要としました。一方で好熱菌は、高温下でも機能する耐熱性DNAポリメラーゼを持ち、彼らの持つ酵素はPCR法の簡便化に貢献したのです。
PCR法に使用される耐熱性酵素を持つ菌としては、Thermus aquaticusThermococcus kodakaraensisが知られている。

6.生育に”必要な”圧力は最低500気圧?!絶対好圧菌、Shewanella bentica

深海はその高圧環境から、生物の希薄な環境だと考えられていましたが、近年の調査によって、驚くほど多様な生物が存在していることが明らかになってきています。高水圧の深海環境で生育する好圧菌は、50MPa(500気圧)などの高い圧力環境下で最も良く繁殖しますが、マリアナ海溝で発見されたShewanella benticaなどは、さらに高圧の70MPaで最もよく生育し、50MPaを下回る圧力では生育ができません。このような生育に超高圧力を必要とし、大気圧下では生育できない好圧菌を、「絶対好圧菌」と呼びます。
これらの好圧菌は、高圧力下でも機能を阻害されない酵素の利用や、細胞膜中に分岐鎖を持つ不飽和脂肪酸によって深海環境へ適応していると考えられています。

7.「放射線に耐える奇妙な果実」放射線耐性菌

Deinococcus radioduransの顕微鏡画像

ご存知の通り、放射線は衝突したDNAを切断し、細胞に致命的な損傷を与えます。10Gy(グレイ)の放射線でヒトを、60Gyの放射線で大腸菌を殺すことができますが、5,000Gyの放射線に耐え、15,000Gyの放射線を照射されてもその37%が生存した菌がいます。Deinococcus radiodurans「放射線に耐える奇妙な果実」という意味の名を持つ放射線耐性生物です。
通常の細胞もDNA修復機能を持っていますが、この微生物は、放射線を照射された際にDNA修復を促進するタンパク質”PprA”を大量に生成して、破壊されたDNAを高速で修正する独自の修復機構を持ちます。

今回紹介した7つの「極限環境微生物」はほんの一部。微生物の生息する領域は、超高水圧の深海海底の下にまで及び、世界中の海底地下には地表の土壌や海洋に匹敵するほどに多様な種類が存在することが明らかになってきています。「海底下生命圏」とも呼べるこの生命圏は、120℃の基盤岩境界域にまで広がり、生命圏の限界の可能性が海底地殻や上部マントルからなる岩石圏にまで及ぶことが示唆されています。常温1気圧の有酸素環境下で生活する私たちからはにわかには信じがたいことですが、微生物は地球上のあらゆる環境に適応しながら暮らしているのです。


参考文献

http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20080729/index.html
https://lifescience.toyobo.co.jp/upload/upld100/special/specialreview.pdf
https://kansai-u.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_
id=16002&item_no=1&page_id=13&block_id=21
https://www.chs.nihon-u.ac.jp/institute/nature/kiyou/2017/52/26.pdf
http://sourui.org/publications/phycology21/materials/file_list_21_pdf/24Snow-algae.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bss/14/4/14_4_341/_pdf
http://www.jamstec.go.jp/jdb/ronbun/Ks00036306.pdf
https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-25450121/25450121seika.pdf
https://www.asama-chemical.co.jp/PN/P101.PDF
https://www.jamstec.go.jp/sugar/j/research/20160220/
好塩菌の塩ストレス適応機構とその応用 –
https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9011/9011_tokushu_2.pdf
放射線抵抗性細菌を用いた基礎研究とその応用への展開 – http://id.nii.ac.jp/1060/00007616/
http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20201204/
http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20201020/

画像クレジット

トップ:Colourful Thermophilic (Heat-loving) Archaea (formerly called Archaebacteria) Stain, Wing-Chi Poon, Public domain, via Wikimedia Commons
1: Iwona Erskine-Kellie from Vancouver, Canada, CC BY 2.0 https://creativecommons.org/licenses/by/2.0, via Wikimedia Commons
2: Grombo, CC BY-SA 3.0 http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/, via Wikimedia Commons 
3: TEM of D. radiodurans acquired in the laboratory of Michael Daly, Uniformed Services University, Bethesda, MD, USA. http://www.usuhs.mil/pat/deinococcus/index_20.htm, Public domain, via Wikimedia Commons


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