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微生物の名前ってどうやって決めているの? 微生物の名前に関するあれこれを突撃取材!後編

微生物の名前ってどうやって決めているの? 微生物の名前に関するあれこれを突撃取材!後編

微生物の名前のつけ方から、その手順まで微生物の名前に関するあれこれを産総研の研究員、玉木秀幸さんに聞くこの企画。前編は、微生物の学名をつけるまでの工程や、学名の成り立ちを紹介しました。後編となる今回は、さらなる気になる質問やぶっちゃけ話を玉木さんにズバリ聞いていきます。なかにはmics magazine編集長・副編集長もびっくりの事実まで……! 後編も必見ですよ〜! 

微生物の名前ってどうやって決めているの? 微生物の名前に関するあれこれを突撃取材!前編はこちら!

微生物の名前ってどうやって決めているの? 微生物の名前に関するあれこれを突撃取材!前編 – mics magazine

Aspergillus oryzae、Pseudomonas aeruginosa、Streptococcus mutans……一体なんて読むの?と首をかしげてしまうような微生物の名前。正式に認められた数は1万種を超え、もちろんそのひとつひとつが異なる名前を持っています。

微生物の名前をつけた人に特権はあるの?

ここまで微生物の名前のつけ方のイロハを教えてもらったけど、やっぱりド素人として気になってしまうのは、微生物の命名者に特権があるのかどうか。自分が名付けた微生物が論文で取り上げられるたびに報酬が入ってきたりして……。少し聞きづらいけど、「え~い! ままよ!」の気持ちで早速玉木さんに質問してみました!

ぶっちゃけて聞きますけど、微生物の名前付けたらお金入ってきたりするんですか? お金とまではいかなくても何か特権とか……ありますよね?

ないですよ。

え……何もないんですか? 遠慮しなくていいんですよ?

本当になにもないんです。強いて言えば、微生物学のバイブル“Bergey’s manual”の執筆をさせてもらえるっていう特権はありますね。あとは自分が名付けた微生物が有名になって、もしその名前が変わる時には連絡がくることもあります。でも報酬が入ってきたりとかはないですよ。

邪心の塊のような超ド素人からすると、「微生物の名前をつけるなんてとんでもない快挙なのに! 100万円くらいほしい!」と思ってしまうものの、さすがは第一線のプロフェッショナル。「名前をつけるのも研究のひとつですから」となんとも格好のいい一言。あれ、そういえば玉木さん、さっき名前が変わる時があるって言ってませんでした? せっかくつけた名前なのに、変わることもあるんですか??

微生物の名前は「変わるべき」もの?!

ただでさえ一筋縄ではいかない微生物の命名。必死に名付けた名前でもその後変わることは珍しくないそう。一体どのような時に名前が変わるのでしょうか?

まず、微生物の名前は、その微生物の特徴を示す「基準株」がベースになってできています。この属や科の微生物にはこんな特徴がある、というのを基準株で定義するんですね。しかし、新しく見つかった微生物によってその定義が変わることがあります。

たとえば、この属の微生物は37度以下でしか生存しませんよと定義されていても、同じ属の微生物で55度で生きられる微生物が見つかったりする。そうなると、定義を変えなければいけません。名前に関しても、冷たい環境を連想する属名がついていた場合は、暖かい場所でも生きられることを連想できる名前に変えます。種名が変わることはあまりないけれど、属名や科名はよく変わりますよ

一度ついた名前は変わらないものだと思ってました……。名前を変える権利は誰にあるんですか?

新しい微生物が見つかって論文を書くときに、属名や科名を変えたほうがいいとなれば、名前を変える提案を論文内で行います。その論文をIJSEMに提出してバリデーションリストに掲載されれば、改名が認められたことになるんです。

作業自体は命名する時と同じようなプロセスなんですね! でも頻繁に名前が変わったりしたら大変じゃないですか?

実際に2021年にも大改訂があったりと頻繁に名前は変わっているので、その情報をこまめに得たりする必要はあります。でも、僕自身は微生物の名前は変わってしかるべきものだと思っているんですよね。

大変なはずなのに、どうしてですか?

名前が変わるということは、新しい発見や研究成果があって分類の基準が変わるということ。今まで知られていなかった微生物の世界が明らかになったことを意味します。同じ分類の枠組みにとどまらず、常に変化や進歩を続けていることが大事なんです。もちろんそれまでの研究へのリスペクトがあるからこそ、改名の時には命名者に連絡がくることもあったりするんです。

「もちろん、自分の付けた名前(特に新門とかは特に)が変えらてしまったりするとモヤモヤはするかもですが(苦笑)」とはにかむ玉木さん。とはいえ長い研究の積み重ねを取りこぼさずにリスペクトする微生物分類学者の皆さんのスマートさには脱帽。う~ん…微生物の名前、聞けば聞くほど奥が深いぞ……ということで、他にも気になる質問をしてみました!

微生物の名前は何がモチーフになっているの?

そういえば、微生物の名前ってどんなものが由来になりやすいんですか?

食べ物温度をモチーフにすることが多いですね。

食べ物は想像できるけど、温度もモチーフになるんですね。

たとえば、温度が高いところに住む微生物には、高温を意味するサーモフィラという名前をつけたり、逆に冷たい場所であればサイクロフィラとつけることが多いです。形もよく名前のモチーフになりますね。

微生物そのものの形ですか?

そうです。細長い菌の時には「~リネア」、丸い菌の場合は「~コッカス」。他には生息地もよく名前の由来になりますよ。「~コラ」と名前についている場合は、生息地を指しています。それこそ、地名に由来して「ツクバエンシス」なんて名前の細菌もいるんですよ。名前の由来を論文で定義しないといけないので、しっかりとその由来がわかるような整合性の取れた名前をつけることが肝ですね。

微生物の名前をつけるのはセンスが必要、と語る玉木さん。その言葉の通り、飛び交うラテン語を聞き取るだけでも精一杯。長年の経験と感覚がものを言う、まさに熟練の技が光る作業なのです。

微生物の名前はなぜイタリックで書くの?

Streptococcus mutansAspergillus oryzaeなど「微生物の学名はイタリックで書け!」とルールは、微生物学に携わる研究者や学生の間ではキホンのキ。かくいうmics magazine編集部員も、イタリックで書き忘れ、編集長、副編集長に何度も赤ペンをもらい続けている常習犯。イタリックで書くっていうルールがあるのは知っているけど、なぜそんなルールができたんだろう? 玉木さん、何で学名はイタリックで書くんですか?

実は、イタリックで書くってルールはないんですよ。

え?

え?

え?

ほんとに、イタリックで書くってルールはないんですよ。

えーーーー!!!! これまで大量の赤ペンをもらいながら書き直していたのに!! ルールすら!ない!なんて! どうなってるんですか!一体!

正式には「学名は本文と異なる字体にすべき」というルールしかないんです。その証拠に本文がイタリックの時って逆に普通の書体になってるんですよ。イタリックがわかりやすいから、イタリックになっているだけ。本文と違う書体にすれば、基本的には論文として認められるはずですよ。ちなみにこれは微生物に関わらず、動物や植物の学名も同じです。

なんだってーー! もっと早く知りたかった……ねぇ! 編集長、副編集長!

まさかですねぇ……

いや、僕も今知りましたねぇ……

これまで散々言われていたのは何だったんだ……! ち、ちくしょー!!

衝撃事実に編集部も思わず唖然。どれだけ掘っても掘り切らない微生物の名前の話、まだまだ聞きたいけれど、そろそろ時間と字数が迫ってきている……! さあ、次が最後の質問です!

微生物の名前にはロマンが詰まっている!

ここまで数々の微生物の名前に関する話を聞き、そのどれもが驚くべきものばかり。では最後に聞きましょう! 玉木さんにとって、「微生物の名前」とは?!

ずばり!微生物の命名はロマンです!

研究者のみなさんのこだわりが詰まってるんですね!

そうなんです! と言いたいところですが、意外にあっさりと名前をつける人もいます(笑)僕たちのグループの場合は、まずは微生物の分離に成功した人、論文を初めに書く人に名前を考えてもらって、そこからグループでさらに詰めていくようにしています。名前がつく前までは株名で呼んでいるので、その株名をそのまま名前に反映する人もいれば、洒落た名前を考える人もいる。みんな違ってみんないいんです。

細かなルールや審査があるぶん、やっぱり学名が正式に認められた時の喜びはひとしおです、と語る玉木さん。いや~、微生物の名前は本当に奥が深い! まだまだ聞きたいことはたくさんあるけれど、今回はここでお開き。素人にはなんだかちょっぴり読みづらい微生物の名前。その裏側には、微生物を探究し続ける研究者たちの熱意や思いが込められているのでした。

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